直感を確信に変える、瞬時の判断が求められるF1レース
―― 「Intuition engineered(直感を確信に)」というメッセージとF1スポーツの関係をもう少し具体的にお聞かせください。
五十嵐 コグニザントはお客様企業の支援において、一見意味を持たないと思われる過去に生成されたデータも分析可能です。これを業務の現場にフィードバックすることで、直感に基づく精度の高い意思決定を行うことができます。まさに「Intuition engineered(直感を確信に)」をビジネスの中で具現化する私たちのテクノロジーは、瞬時の意思決定が求められるF1レースと高い親和性があると考えています。
中山 コグニザントはF1マシンを走るIoTデバイスと捉え、車体に取り付けられた数百ものセンサーから膨大なデータを収集し、英国のシルバーストンの本拠地で分析を行い、サーキットのエンジニアにフィードバックしています。ステーブルな局面が1秒たりともないF1レースにおいて、現実に起きていることを瞬時に把握して、即座に反応する武器を提供しているのです。
五十嵐 レースの行方を左右するピットイン戦略も、技術の進歩やレギュレーション変更に伴い変遷します。コンマ数秒の単位でタイムを争うスポーツのため、ピットインは大きなイベントの1つであり、そのシミュレーションを可能にすることも高度なデータ活用のなせる業です。これもまたコグニザントによる直観と確信をつなげる一例だと思います。
中山 具体例としては「このタイミングでタイヤを交換すれば相手より0.3秒速く走れるから、先に交換することで数周先に相手がピットインした時には、その稼いだタイム差で追い抜こう」というピットイン後の結果も先取りしたシミュレーションも可能にしている、ということになります。
―― ファイナンスオペレーションやファンエンゲージメントに関するコグニザントの役割と成果についてもお聞かせください。
五十嵐 過去に手がけたプロジェクトで、グループ35社の会計システムを統合したいという要望に対して、80インスタンスの基幹システムはそのままの状態で、プロセスとデータをエンドツーエンドでつなげるデータプラットフォームを構築する、という事例をわずか10カ月で完了したケースがありました。これが可能だったのは、コグニザントにはデータの流れ、プロセスを理解して、AIやオートメーションの仕組みを整理するノウハウがあるからです。
中山 F1チームの運営にあたっては、このノウハウを応用して、マシン単位、レース単位で発生する多種多様なデータとプロセスをつないで予実チェックができる体制を整備し、戦略の修正や再投資の判断を行っています。 例えば、マシンのメジャーアップデートでも、期間内ではうまくいかないことを予め察知し、全体の投資計画を練り直す柔軟なファイナンスも可能になっています。ファンエンゲージメントの分野では、マーチャンダイズの観点からファンの方々のアクティビティをすべてデータベース化しています。熱意や来場頻度などをスコア化してセグメントし、パーソナルなメッセージを発信していく支援もしています。
データを活用して、日本の製造業の「匠の技」を未来に継承
―― F1チームの支援を通じて得られたさまざまな知見は、コグニザントの顧客、特に日本の製造業の顧客にどのように還元することができますか。
五十嵐 F1は、いわば企業の事業そのものを凝縮したような世界です。データを活用しながら仮説と検証を繰り返し、最適な答えを求めていくプロセスはまさに同じです。特に製造業において工場のラインの状態をデータで視える化する部分などは、非常に通ずる部分が多いと思います。つまり、F1チームの支援自体が製造業に還元できるノウハウを得るための巨大な実験場になっています。経験と勘の確かさをデータで裏付け、ピットインのタイミングを割り出すように、製造現場の経験と勘で在庫調整や部品調達を革新するご支援をしていきたいと考えています。
中山 特に日本の製造業の大きな課題である「属人化」の解消にも、F1レースから得た知見が活かせるのではないかと考えています。F1では、ドライバー達の走行はデータ化され、シミュレーターでトレースできる仕組みが整備されています。テスト、フリー走行、予選とそれぞれの場面で、エンジニアはドライバーからのドライビングフィードバックと実際のデータを比較しながら、最適なセットアップを探していきます。この活動から生まれる膨大なデータは車両開発にも活かされます。また、次世代のドライバーを育成する際の道標としても活用できるようになります。このような環境と活動は製造業における匠の世界に通じますので、日本の製造現場においても役立てることができるはずです。
五十嵐 最近、A Iを活用した酒造りなどがニュースになっていますが、杜氏がいなくても杜氏の名人芸を再現できるような仕組みを製造業でも形にしていきたいと考えています。「あの職人さんがいなくなったら、この現場は回らない」という状況を、匠にしかわからなかった直感を誰にでも使えるようにすることで解決していく。それこそが、日本の製造業におけるコグニザントの大きな使命です。コグニザントはIT業界の先頭に立って、匠の技を未来につないでいきます。
中山 すでに現時点でも、かつては直感と呼ばれたものの大部分がデータに置き換えられるようになっています。コグニザントが目指すのは、テクノロジーの力で直感を誰もが使えるようにした上で、そこから生まれる新たな直感をまたデータで実証されたベストプラクティスへと進化させていくことです。そのためにも、F1レースでドライバーやエンジニアの直感に頼っていた領域をデータ化しながら、次のステップに進むための支援に力を入れていきたいです。
五十嵐 そう考えると、日本の製造業の最も重要なキーワードは「直感力」かもしれません。中山が言うように、テクノロジーの力で日本が誇る匠の技を受け継ぎ、さらに進化させていくような世界が実現できれば、日本の失われた30年を取り戻せる可能性もあるかもしれません。
―― その他、日本の製造業への貢献についてのビジョンをお聞かせください。
五十嵐 日本の製造業では、素晴らしい製品を作っている反面、利益の面で課題を抱えているお客様が多くいらっしゃいます。データを活用したよりきめ細やかなトレーサビリティが実現できれば、トラブルやリコールによる出荷停止といったリスクも最小化でき、ものづくりの利益向上に貢献できると思います。
中山 日本の製造業は伝統的にハードウェアの制御や運用といったオペレーションテクノロジー(OT)に大きな強みを有しています。そこにインフォメーションテクノロジー(IT)ヘの取り組みが組み合わされば、さらに強みは飛躍するはずです。IT領域を支援してそのレベルへと引き上げていくことも我々の使命だと考えています。OTとITの融合によるものづくりの競争力アップにも取り組んでいきたいですね。
五十嵐 ある著名な学者は、直感を「過去の経験や知見の蓄積からオートマチックに瞬間的に出てくる考え」と定義しています。つまり、過去にいい経験を積んできている人は年齢を重ねるほど直感が冴え、精度も上がっていく。同じように、コグニザントのF1チーム支援という経験を通じて、直感を確信に変えるノウハウを進化させ、製造業をはじめとする多くの日本のお客様が重ねてきた「いい経験」を、課題解決につなげていけるよう力強くサポートしていきたいと考えています。