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コグニザントジャパン ブログ

業務に本格的な革新をもたらすマルチエージェントAI

人間との協業にとどまらず、エージェント同士が自律的に連携し合うマルチエージェントAI。それは、すでにビジネスに大きな変革をもたらしていますが、本格的な活用はまだ始まったばかりです。


なぜ企業は自社の人事システムとサプライチェーンとの連携を目指すのでしょうか?企業の調達活動と持続可能性や温室効果ガスの排出量管理との間にはどのような関係性があるのでしょうか?製品開発とCRMの間にはどのような関係性があるのでしょうか?

企業はエコシステムであり、その構造は内部および外部の要因によって進化し、変化します。これを踏まえ、先ほどの3つの問いに答えてみましょう。サプライチェーンの遅延は配送センターの人員配置に影響を与えるかもしれません。新たなベンダーの採用はスコープ3排出量に影響を及ぼすかもしれません。顧客離れは製品の欠陥が原因かもしれません。

問題は、ビジネスの目標、活動、指標は密接に結びついているにもかかわらず、複数の部署やチームが使用するソフトウェアシステム同士に結び付きがないということです。サプライチェーンとの「対話」を欠いた人事システム、持続可能性の取り組みと無縁の調達、製品開発との連携を欠いたCRM。こうしたシステムのサイロ化の結果、企業は特定のシステムから得た限られたインサイトに依存せざるを得ません。そして、その意思決定の影響範囲もごく一部の機能に限定されてしまいます。

しかし、もしこれらのシステムが相互に連携するとしたらどうでしょうか?もし、情報が特定のソフトウェアシステム内だけでなく、企業全体で活用できるとしたらどうでしょうか?もし、あるシステムが推奨するアクションが、特定の機能だけでなく、その影響を受けるあらゆる事業領域に適用されるものだったとしたらどうでしょうか?

それを実現するのがまさにマルチエージェントAIシステムです。AIエージェントが提供する単一のインターフェースのもとに業務を統合することで、効率性と品質の向上が可能になります。マルチエージェントAIシステムに秘められた可能性は大きく、その力をすでに活用している企業も現れています。

マルチエージェントAI: 概念と定義

マルチエージェントAIシステムの概念自体は、決して新しいものではありません。 実際、最近 「AI Magazine」に寄稿した記事の中でも述べましたが、かつて1980年代に盛んだった議論が、今になって再び注目を集めています。当時、多くの技術者が単一の人工知能ソフトウェアの開発に取り組んでいました。しかし、初期のモデルは、計算能力の不足、ラベル付きデータの欠如、不十分なアルゴリズムのために、最終的には実現に至りませんでした。ところが今、大規模言語モデル(LLM)の自然言語処理能力が進化し、生成AIが台頭してきたことで、この概念が再び注目を集めています。

1980年代と90年代に多くの技術者が目指していた単一のAIソフトウェアとは同じものではありませんが、マルチエージェントAIシステムは、多くの点で当時の構想が現代に形を変えて具現化したものと言えます。

マルチエージェントAIシステムは、LLM(大規模言語モデル)を含む非常に高度で知的なAIツールをソフトウェアシステム内に組み込んだネットワークです。この「連携型システム」によって、あらゆるソフトウェア、機能、モジュール、アプリに統合された生成AIの LLM同士が相互に連携し合う環境が生まれます。

このシステム内では、すべてのエージェントは、同じLLMを「共通の基盤」としつつも、LLMによって生成されたそれぞれに異なるシステムプロンプトが設定されており、そのプロンプトによって個々の役割が定義されています。エージェントはバーチャルチームとして、プロンプトの分析や企業全体の情報収集を行い、元の依頼者だけでなく、他のチームにも役立つ包括的な解決策を提供します。

例えば、製造業におけるマルチエージェントAIシステムを考えてみましょう。 まず、調達を担当するエージェントが、既存のプロセスを分析し、時期や需要に応じてコスト効率の高い代替部品を推奨します。次に、このエージェントは持続可能性を担当するエージェントと連携し、部品の変更が排出量などの環境目標にどのような影響を与えるかを評価します。最後に、規制対応を担当するエージェントがコンプライアンスを管理し、各チームがコンプライアンスを満たす最新の報告書を期限内に提出できるよう監督します。

人事においては、AIエージェントは従業員のオンボーディングを効率化し、分断された人事、IT、管理部門のワークフローを連携させ、管理します。例えば、採用エージェントはオファーを提示し、候補者が承諾すると、オンボーディングエージェントにプロセスを引き継ぎます。オンボーディングエージェントは、必要な書類の収集と確認を行い、研修のスケジュールを調整します。さらに、これらの人事担当エージェントはITエージェントと連携し、新入社員へのデバイスの割り当てやシステム設定といった業務を自動化します。

マルチエージェントシステムがその力を発揮する興味深い分野の一つに、企業資源計画(ERP)があります。前提として、ERPシステムは、組織内のさまざまな機能を統合して、部門間の情報共有を可能にし、意思決定を支援します。従来のERPシステムがビジネスプロセスに特化して設計されているのに対し、マルチエージェントAIシステムはより汎用的でありながら、ERPのような機能にも適応します。LLMベースのマルチエージェントシステムがERPにもたらす価値は、非構造化データの処理能力と、柔軟性と適応力の高いプロセス管理の実現にあります。従来のERPシステムは主にあらかじめ定義されたプロセスを実行しますが、AIエージェントはより複雑で自律的な意思決定を行うことができます。

ここまでマルチエージェントAIが実現する可能性について話してきましたがいかがでしょうか。マルチエージェントAIは、皆さんが思っているよりも早く、さまざまな業界や企業に影響を与えるかもしれません。

エージェント型AIがもたらすビジネスへの影響

OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は最近、エージェントが「AIの革新的な機能(killer function)」になると述べ、さらにこの技術は「超優秀な同僚(super-competent colleague)」になり得る可能性を秘めていると語りました。

私は、エージェントは「killer function」になりつつあるものの、目立たず静かに進行していると感じています。マルチエージェントシステムへの移行は確かに始まっています。ただし、静かに、目立たない形で。

多くの企業が、LLMベースのチャットボットを社内イントラネットに導入し、従業員向けに提供を開始しています。同時に、人事、財務、法務、ITといった各部門も、それぞれの業務向けアプリケーションにAIベースのチャットボットを導入しています。しかし、その結果、使い勝手が悪くなることもあります。従業員が全社共通のチャットボットで問い合わせても、各部門の専用ツールに同じ質問を繰り返さなければならないケースが多々あるのです。

これは大きな問題です。LLMベースのチャットボットは、本来、連携して回答を統一すべきものです。それこそが、マルチエージェントシステムの根本的な理念なのです。

ハイテク企業がこの理念の早期実現に意欲を見せていることは注目に値します。Gartnerの最新調査によれば、ITサービスに対する世界の企業支出は今年1.52兆ドルに達する見込みであり、その大幅な増加の主な要因は生成AI関連のプログラムや計画です。

テクノロジー人材の不足が深刻化する中、AIプログラムの拡大に伴い、コンサルティングサービスへの支出が急増しています。Gartnerの調査によると、企業は社内リソースよりも外部リソースに対する投資を増やしており、これは今までには見られなかった傾向です。この調査結果は、企業がAIプログラムを拡大し、その恩恵を最大限に享受するために、あらゆる手段を講じていることを示唆していると言えるでしょう。

マルチエージェントAIの仕組み

マルチエージェントAIの価値を十分に理解するには、システムおよびシステムを構成する各要素がどのように機能するのかを把握することが重要です。

前述のとおり、AIエージェントとは、モジュール、機能、サービス、またはデータベースに統合された生成AI LLMであり、ChatGPTのようなツールと同じ感覚で、ユーザーが自然言語でその機能と対話できるようにするものです(図1参照)。

AIエージェント

図1: AIエージェント

マルチエージェントアーキテクチャは拡張可能であるため、システムはユーザーのリクエストに対応するインテントログ(図2を参照)を蓄積しながら進化することができます。システムは文脈を理解し、各ステップを自然言語で説明できるため、エージェントが実行した内容とその理由を記録することが可能になります。

この機能により信頼性と透明性が高まり、AI技術の導入はさらに加速するでしょう。ユーザーは、どのようなAIが提案した理由を自然言語で理解できるようになります。これは、経験豊富な専門家にとっては特に重要です。彼らの知見は、しばしば限られた情報に基づいているため、AIの提案が自分の考えと合わないと懐疑的になることがあるからです。

AIエージェントとインテントログ

図2: インテントログでコンプライアンスを強化

拡張可能なアーキテクチャにより、エージェントの振る舞いを監視する「セーフガードエージェント」(図3参照)を導入することも可能になります。セーフガードエージェントは、監視役として、ポリシーや規定の違反を検知するとユーザーに警告を発します。また、場合によっては、不適切な応答の発生を防ぐこともできます。

例えば、ポリシーや規制の遵守を徹底させることで、倫理的な利用を促進する役割を果たします。また、ユーザーがシステムに対してコンプライアンスに違反する操作を要求した場合、介入するように設定することも可能です。さらに、データの信頼性を確認することで、ハルシネーションを抑制し、データのプライバシーとセキュリティを保護します。

セーフガードエージェントで信頼性と透明性を強化

図3: セーフガードエージェントで信頼性と透明性を強化

さらに深く掘り下げてみます。データベースに加えて、ユーザーの問い合わせやコマンドをより効果的に処理するマイクロサービスを組み込んだアプリケーションについて考えてみましょう。この場合、システムはユーザーに対して、そのサービス専用のエージェントとやり取りするよう促すか、ユーザーに代わって最初のエージェントと別のエージェントを直接やり取りさせることが可能です。

これを実現するには、ユーザーに対応する元のエージェントが、マイクロサービスを担当するエージェントの存在を認識している必要があります。両者は直接コミュニケーションを取りながら、ユーザーのリクエストを処理し、意図を把握しつつ、特定のサービスに対するコールの形式や構文の変化に適応します。2つのエージェントが直接連携している場合でも、自然言語を使用しているため、透明性を維持することができます。

気づけば、企業のあらゆるソフトウェアやアプリケーションが、図4のように「エージェント化」されていくかもしれません。

「エージェント化」する企業

図4: 「エージェント化」する企業

マルチエージェントAIの利点

ソフトウェアやアプリケーションのスタックをエージェントベースのアーキテクチャへ移行することには、従来のITアプローチと比べて明確な利点があります。

  • 倫理性・透明性・セキュリティ
    • インテントログ:各エージェントは、実行するすべてのトランザクションやサービスコールの意図(インテント)を記録するため、透明性と追跡可能性が向上する。
    • セーフガードエージェント:他のエージェントの動作を監視するエージェントを導入することで、責任あるAIの運用や倫理基準の順守を確保できる。
    • 強化されたセキュリティ:セキュリティ対策を各エージェントに実装できるため、より細やかなセキュリティ管理が可能になる。
       
  • 柔軟性・スケーラビリティ
    • モジュール性:エージェントベースのシステムは高度にモジュール化されており、更新やメンテナンスが容易。各エージェントは独立して開発・展開・拡張可能で、システムへの影響を最小限に抑えられる。
    • カスタマイズ性・拡張性:新しいエージェントの追加や、既存エージェントの変更が容易で、影響を最小限に抑えながら、システムの継続的な改善や新たな要件への対応が可能。
       
  • 信頼性
    • 高い耐障害性:特定のエージェントが故障しても、システム全体に影響を与えない。エージェント同士が適切に障害に対処することで、システム全体の信頼性が向上する。
       
  • 効率性・無駄の削減
    • 自律性と専門性:各エージェントが特定のタスクに特化することで、アプリケーションスタックの機能をより効率的かつ最適化して実行することができる。
    • データ処理の最適化:エージェントがローカルでデータを処理し、関連する情報のみを通信することで、データ転送コストを削減し、パフォーマンスを向上させることができる。
    • リソース管理の向上:エージェントがシステムの状態や負荷に応じて動作を最適化することで、リソースの効率的な運用が可能になる。
       
  • ユーザーエクスペリエンスの向上
    • 強固なエージェント間コミュニケーション:エージェント同士のコミュニケーションは、意図に基づき、自然言語で行われることが多いため対話がより分かりやすく、インテグレーションも簡素化できる。
    • 相互運用性:エージェントは多様なシステムやサービスと連携可能。統一されたインターフェースを提供し、異なるプラットフォームや技術間の統合を促進する。

チャンスを掴む: マルチエージェントの未来へ

時代の流れに乗り、多くの企業がマルチエージェント型ソフトウェアの導入を進めていますが、今後の展開については戦略的なアプローチが求められます。特に、エージェント化の粒度、使用するLLMの種類、さらにはLLMをいつ・どのように最適化するかについては慎重な検討が必要です。

すべてのアプリケーションがエージェント化に適しているとは限りません。完全自律型のエージェント型システムはひとつの理想ではあるものの、技術的・社会的な要因を考慮すると、必ずしも実用的ではありません。そのため、まずは組織全体のニーズや目標を最優先に考え、トップダウンのアプローチで何をエージェント化すべきか決定することが重要になります。

これには、組織内のさまざまなワークフローにおける各関係者の役割やコミュニケーションを整理し、それらをLLMベースのエージェントでどのように強化できるかを検討するプロセスも含まれます。このアプローチは、組織の構造やプロセスを根本から見直し完全な自律化と効率の最大化を目指すアプローチとは微妙に異なります。

エージェント化は、今ある組織で実行するべきだということに注意してください。そして、多くの場合、エージェントの導入は段階的に進めることが理想的です。人が中心となる組織においては、エージェントが日々の業務で受け入れられ、信頼され、利用されることが不可欠となるでしょう。

このプロセスが上手く行けば、組織の効率化が進み、従業員の満足度も向上していくはずです。また、既存のKPIを用いて、エージェント化の影響を測定することも可能になるでしょう。

この記事は英語の原文を翻訳したものです。

原文はこちら:
Multi-agent AI is set to revolutionize enterprise operations



この記事の投稿者

Babak Hodjat (ババク・ホジャット)

CTO, AI

CTO, AI

コグニザントのAI担当CTO最高技術責任者。センティエント・テクノロジーズでは共同創業者としてCEOを務める。世界最大の分散型AIシステムの第一人者であり、世界初のAIヘッジファンドの創始者でもある。




この記事の投稿者

Ravi Kumar S (ラヴィ・クマール・S)

CEO, Cognizant

CEO, Cognizant

2023年1月、コグニザントのCEOに就任。コグニザントの戦略的方向性を定め、顧客第一主義を推進。持続可能な成長と長期的な株主価値の向上に努めている。




この記事の投稿者

Naveen Sharma (ナヴィーン・シャルマ)

AI & Analytics事業担当バイスプレジデント

AI & Analytics事業担当バイスプレジデント

コグニザントのAI & Analytics事業担当バイスプレジデント。ソートリーダーシップ、イノベーション、プリセールス、サービス開発、ポートフォリオ管理を通じて成長を促進することに注力。




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